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今夜、あなたの猫になる

今夜、あなたの猫になる【18】

 ←今夜、あなたの猫になる【17】 
 眠ってしまおうと考えていたのに、何故か目が冴えてしまっていた。
 ガラスの檻でごろごろしていた大貴は、はあっと溜息をつき、サイドテーブルに置いておいた雑誌を取り上げた。
 コンビニには置いていない高級感ある経済雑誌だったが、ぱらぱらとページをめくっていると、その記事はすぐに見つかった。
 今、注目の若手社長──そんな見出しがついたインタビュー特集の中に、見開きで四ページ分、写真と共に談話が載っている。
 文章を読む前に、大貴の目は、写真に吸い寄せられていた。
 本に囲まれた重厚な書斎の中で、エレガントな椅子に座っている男が、あの謎めいたアルカイックスマイルを浮かべている。
 ファッション雑誌では見られない、理知的な美しいポートレイトに、思わず溜息が出そうになった。

(……見た目はイイんだよ、見た目は)

 一瞬恍惚となった自分をごまかした大貴は、粗探しをしようと、写真を睨みつけた。

「──て言うか、カッコつけすぎ。変態なトコ隠して、猫被ってんだろ」

 この欠点などまるで無さそうな美丈夫が、どれだけいやらしい事をしたのか、知っているのは自分だけなのだ。
 下ネタにはほど遠い、インテリジェンスな言葉を語る唇や、優雅に組み合わされた指先が、何を囁き、何をしたのか──。
 思い出すと急に気分が高揚し、奇妙な陶酔が生まれた。

(……や、やばい)

 飽きずに写真を眺め続けていると、急にアノ感覚が湧き上がってくる。
 エロ本やAVにお世話になっていた時と同じ、欲情の予感──大貴は慌てて、色気の無い記事に、全神経を集中させた。
 庄領千晴の略歴を見ると、東京大学建築科卒業後、ハーバード大学大学院建築科卒業とある。

(──……超エリートじゃねーかよ)

 偏差値の格差も凄まじいが、将来の目標も見つからないまま、ネームバリューだけを求めて私立大学に入った自分とは明らかに違う。
 敗北感に打ちのめされながら、大貴は記事を読み進めていった。
 そこには、都市計画や環境マネジメントの提言、そして日本の古い町並みの美しさに対する感想など、幅広い意見が載せられていた。



──三十三歳という若さで、『庄領ハウジング』の社長というのは、ご苦労が絶えないと思いますが、そんな庄領社長は、休日をどのように過ごされているのですか?

『社長と言っても、今はまだ、グループ会社の末端でしかありません。
 私自身、駆け出しですから。
 しかしながら付き合いは非常に多いので、休日は接待ゴルフに駆り出されることが多いですよ。
 時間がある時は、できるだけ自宅で過ごすようにしています。
 とは言え、ほとんど残業ですね』

──ご趣味は?

『趣味と言えるようなものは、ほとんどありません。
 せいぜい、人並みに本を読んだり、音楽を聴いたり。
 強いて言うなら、時間を作って、電車を乗り歩くのが趣味みたいなものでしょうか』 

──電車がお好きなんですか?

『電車そのものと言うよりは、窓から見える風景であったり、そこに乗っている人たちを観察するのが好きなんです。
 生活に根付いているでしょう?
 会社帰りの疲れたサラリーマンが、どういう家に帰って、ビールを飲むんだろうとか、そういう事を考えていると、時々面白いアイデアが閃きます。
 個人的な移動はほとんど車ですから、時間を作って乗りに行くわけです。
 先日はラッシュに巻き込まれてうんざりしましたが、それも良い経験です』



 うつ伏せになって記事を読んでいた大貴は、頬杖をついて溜息をもらした。

(つまり……俺と会ったあの日も、あいつにとっての『趣味』の時間だったって事だよなあ)

 確かに、今思い出してみると、庄領のような男が、ラッシュ時の地下鉄に乗っているのは不自然だった。
 物好きだとは思うが、わざわざ満員電車に乗りに来たのだとすれば、あの浮世離れした雰囲気も理解できる。

(それにしても……見事に猫被ってるよな)

 文章から、営業向きの柔らかい声が聞こえてくるような気がした。
 謙虚な態度の裏に、傲慢でエロティックな顔が潜んでいるとは、誰も思わないだろう。
 そして当たり前だが、ゲイであるとは一言も書かれていない。
 庄領の写真に目を戻した大貴は、はあっと溜息をついた。
 突発的な欲情は鎮まっていたが、言葉で言い表せない感情が、胸の奥でぐるぐる渦巻いている。

(──変なヤツだよな。忙しいのに……俺なんか構って)

 ただのゲームだと言うならなおさら、時間を割くにふさわしい相手を選べば良い。
 庄領に比べれば、自分は未熟で考え無しのお子様でしかなかった。
 雑誌の上に顎を乗せ、大貴がもう一度嘆息をもらした時、ガラス部屋のドアが開き、銀のトレーを持った嶺村が入ってきた。

「──やだなあ、大ちゃん。そんな切なそうな顔しちゃって。
 寂しいだろうけど、千晴はしばらく、ここには来られないよ」
「全然切なくありませんから、ご心配なく」

 慌てて顔を上げた大貴は、雑誌を急いで閉じて、枕辺に押しやった。
 しかし最後の言葉が気にかかり、さりげなさを装って嶺村に訊ねた。

「しばらく来られないって、庄領さん、お忙しいんですか?
 これを読んだら、確かに大変そうだとは思いますけど」
「うん。ここに来る時間調整するの、結構大変だったらしくてね」

 さらりと答えた嶺村は、無意識に顔を曇らせた大貴に、明るい声で話しかけた。

「それはそうと、君の新しい『求愛者』が来たよ」
「──えっ?」

 愕然として大貴が顔を上げると、嶺村はシャンパングラスをサイドテーブルに置き、一枚の名刺を差し出した。

「これは、彼からのご挨拶。
 千晴の事が気に入らないなら、もう放っておいてもいいから。
 これからは、あっちの彼の事を考えてあげてね」

 嶺村に促され、はっと特等席を振り返った大貴は、そこに庄領ではない別の男が座っていることに気づいた。

「彼の名前は、那波瑛吾(ななみえいご)。個人投資家だそうだよ。
 ゲストなんだけど、信頼できる筋の推薦があるからゲームにも参加してもらった。
 最高価格であの椅子を競り落としたから、今日から彼が君の『求愛者』だ」

 耳元で囁く嶺村の声は、いつになく嬉しそうに弾んでいる。
 その言葉に不審を感じて、大貴は眉をひそめた。

「──競り?」
「参加希望者が多い時は、あの椅子に座る権利がオークションにかけられるんだ。
 今回のような事はあまり起こらないんだよ。
 大手柄だったね、大ちゃん」

 くすくすと笑った嶺村は、困惑している大貴の頭をポンポンと軽く叩き、ガラス部屋から出ていった。
 新たな『七日間の求愛』が始まった事を知り、大貴は複雑な想いに駆られた。
 何故か、全然嬉しくない。
 見捨てられたような、裏切られたような気分にさえなった。

(……ただのゲームじゃないか。
 あの那波さんだって、あいつよりずっといい人かもしれないし。
 そもそも俺は、男には興味無いんだ。
 合コンで可愛い彼女見つけて、全部忘れればいい)

 頭の中で自分にそう言い聞かせ、大貴はちらりと雑誌に目を向けた。
 断ち切ると決めたはずなのに、心が残る──そんな自分が、いっそ恨めしい。

(とにかく、嫌な相手なら追っ払えばいい。
 男とデートなんて、もうゴメンだ)

 嘆息をもらした大貴は、庄領の時と同じように、一番高いシャンパンをボトルで注文した。
 それが、ゲーム開始の合図だった。



 新しい『求愛者』となった那波瑛吾は、庄領とは全く雰囲気を異にする男だった。
 だが、変わり者という点では、負けていない。
『七日間の求愛』が始まったその時から、男はベッドでふて寝している大貴に近づき、堂々とカメラのレンズを向けた。
 それも、ケータイや掌サイズのデジカメではなく、真っ黒なボディのデジタル一眼レフカメラなのだ。
 ぎょっとする大貴の顔にもシャッターを切りつつ、男はガラス部屋のあらゆる角度から、『猫』の写真を撮り続けていた。

(……何なんだよ、あいつは?)

 不愉快な気分になり、大貴は枕に顔を埋めた。
 確かに、倶楽部『ファロス』では、『猫』の写真撮影は許可されている。
 他のメンバーも、新しい『猫』が来ると、記念撮影していくらしいのだ。
 ネット上などで画像投稿を行わない限り、那波の行為はルール違反にならないのだが、これほどあからさまに写真を撮られるのは、やはり気分が悪かった。

 枕の隙間から那波を睨むと、男は能面のような無表情で大貴を凝視している。
 長い前髪が、ひさしのように目元を覆い隠しているため、はっきりと顔立ちは判らない。
 だが、まだ倶楽部に入会していないゲストであるため、見慣れない顔だということはすぐに判別できた。
 背は高いのだが、庄領よりも細身で、手足が異常に長く見える。
 さらに、スーツからシャツまで黒一色に統一された服装をしているせいで、男の陰気な雰囲気が増していた。
 ガラス越しに見ると、顔から下が、黒い絵の具で塗りつぶされているようにさえ見える。
 ところが、大貴の視線を感じ取ったのか、男は突然、色の濃いサングラスで目元を覆ってしまった。

(いったい、あいつと何を話せって言うんだ?)

 特等席に戻った那波が、カバンから取り出したノートパソコンをテーブルに置く姿を見て、大貴は唖然とした。
 まるで会社に出勤して、今から仕事をしようという姿にも見える。
 彼は本当に『猫』に興味があるのか──それすらも疑ってしまうような態度だった。

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